15時に角館を出て、本日の宿に向かう。
ゆぽぽ山荘。
ひらがなで書くと「ゆぽぽさんそう」。
カタカナで書くと「ユポポサンソウ」。
ローマ字で書くと「YUPOPO-SANSO」。
妙な名前だ。
念願の遭遇
道中、出会いたかった二つに出会う。
一つは秋田新幹線。
超ローカル線な景色の中を、あの流麗な車体が、けっこうなスピードで走り去る。
その衝撃というか笑撃。
ありがとう秋田新幹線。
そしてもう一つは、言わずと知れたアレ。
人生初 生ババヘラとの遭遇
バッチャのつくるババヘラは予想通りの味。
クリーミーさに乏しいミルクシャーベットという感じ。
アイスというより氷菓といったほうがいいか。
素朴で懐かしく、真夏の炎天下、木陰で涼を取るのに相応しい味。
なんだか、小さい頃に帰ったような気分だ。
ありがとうババヘラ。
いい思い出になりました。
ゆぽぽ山荘到着〜チェックインという試練
到着したのは15時50分頃。
狭い駐車スペースに車を停め、荷物を取り出そうと、ドアを大きく開けた途端、大きなトンボが2匹飛び込んで来た。
フロントガラスのところでバタバタもがいて外に出られない。
バカな奴らだ。
招かれざる客を追い出すのに数分要したのちチェックイン…とはいかなかった。
チェックイン5分前のフロントに人影はなく、「誰もいないとき押すボタン」なるものを何度も押しても誰一人現われず、何一つ変化もない。
宿泊客はその辺をウロウロしているのだが…どうも、彼らも事情はよく分からないらしい。
ボタンを押しながら待つこと数分。時折呼びかけてみるものの反応がない。
仕方なく、ゆぽぽ山荘に電話をかけると、目の前の電話が鳴りだした。
あ、これダメなパターンだ。
押し寄せる脱力感。
昨年の十三湖畔の宿を思い起こす。
東北の宿は慢性的なスタッフ不足のようだ。
などと半ば諦め始めたところ、奥から年配の女性が元気良く登場。
「すみませんねー。ベルの機械、別の部屋に置きっ放しだったもんで。」
そりゃ聞こえませんねー、仕方ないですねー。
やはり、いろいろ諦めたほうが良さそうだ。
宿に着いたら最初にすること
部屋に入って、荷物を解いたら、真っ先に電源コンセントとインターネット接続環境をチェック。
必要な配線を施し、電源アダプターをセット、必要な機器の充電を始める。
そして、撮影した写真にGPSデータを書き込み、画像をMacに移したのち、アプリ「写真」でチェック、いい感じの画像を選び出し、時に編集加工を施してから、リサイズ&jpg書き出し、そしてブログアップというミッションを行う。
なんだろう、あらためて文章にすると、仕事の延長のような気がしてならない…。
う~む…。
まあ、楽しいのだから良しとしよう。
ブログアップの途中で夕食の時間。
もう18時だ。
山奥の宿でなにやってんだろうワタシ。
夕飯か、まあ何か食えればいい。
予約時にチェックもしなかったし。
さほど期待もせず食堂に向かう。
予想だにしなかった美味
期待しなかった分、ハードルが下がって評価アップ。
なんてことは良くあるが、ゆぽぽ山荘は違った。
マジで美味い。
きめ細かなフリッターのような衣。まったく油っぽくなく、それでいてラングドシャークッキーのようなサクサク感。
火加減は絶妙というより超絶技巧。ラフマニノフもびっくりだ。
ナスなんか、生じゃないかと思うくらいシャッキリしているのに、しっかりと火が通っていて、しかもみずみずしい。
これが天ぷらなのか。
今まで食べた天ぷらが油の揚げ漬けに思えてくる。
ご主人、あなたは一体どこから来て、どこへ行くのですか?
次に驚いたのは、自分たちで採って来たという山菜「みず」の浅漬けというか出汁漬け。
えぐみ・渋みはまったくない。プチッとした歯ごたえに続き、柔らかな実から、若干のぬめりと共に、出汁の旨味と「みず」の水=汁の旨味がほとばしる。香りは鮮烈でありながら、どこか控えめ。ご飯と一緒に呑み込めば、美味しさピークにさっと香りが消えて行く心憎さ。
なにこれ超美味い。
「秋田は山菜が一杯採れるんです。」
奥さんによると、その種類・量は日本一。
食べ方も多彩。
採り過ぎても決して捨てず保存するという伝統も確立されているらしい。
自家用の缶詰を作る人も多いとのこと。
そうして一年中山菜を楽しんでいるのだ。
秋田おそるべし。
こんな塩焼き、食べたことがない。
なんだろう、この、人生ン10年無駄にした感は。
じっくり炙った身は、骨まで柔らかく、得も言われぬ香ばしさが漂う。
それでいて身はパサつかず、しっかりとした食べ応えを維持したまま、しっとりと旨味が溢れ出す。
どうしたらこんな風に焼くことができるのか?
ご主人、あなたは何と戦っているのですか?
ただの酢の物と思った。
菊の花、丁寧に湯むきされたミニトマトの下に、つるりとした食感のアレが潜んでいた。
地の蓴菜だ。
舌の上でプルプル踊り、次の瞬間つるりと喉の奥に滑り込む。
口の中のちょっとした遊びが愉しい。
自家製の切りたんぽも素晴らしかった。
表面がきつね色で、お焦げの香りと出汁の香りが渾然となって鼻孔を通り過ぎる。思わず日本CHACHACHAだ。
その他、自家製いぶりがっこ、自家製浅漬け、近くで採って来た筍の煮しめ。
地のものに加え、自分たちで採ってきた山菜や野菜に、手作りのこだわり切りたんぽ。
確かに素材の良さも光るけど、素晴らしいのは料理人であるご主人の腕。
天ぷらの揚げ方なんか、神レベルと言っても過言じゃないが、何より感心したのが、味付け・塩加減だ。
一見、ざっくりとした田舎料理のように見えるが、一品一品が、これ以上でも、これ以下でもあり得ないバランスで、丁寧に味付けされている。
ぶっきらぼうのようで、隅々まで、神経の行き届いた仕事ぶり。
見栄えだけは素晴らしい、料理ごっこが跋扈する世界とは無縁の清々しさに、すっかり心奪われた。
「ヤツは大変なものを盗んで行きました。」
今は亡き、納谷五郎の声が聞こえてくるようだ。
トレビの泉でアンコと叫びたい。
いいじゃないですかゆぽぽ山荘。